NEWS
【代謝生化学研究室】研究紹介:'メタボロミクス'って?
- 教育・研究
代謝生化学研究室では、'メタボロミクス'という技術を用いて、様々な研究を進めています。皆さん、'メタボロミクス'というものをご存じでしょうか?今回は、この'メタボロミクス'について、簡単にご紹介します。
高校の生物などの授業で習ったことがあるかもしれませんが、細胞中にはDNAやRNA、タンパク質といった様々な生体物質が存在しており、「DNA→RNA→タンパク質」(図1)の順で遺伝情報が伝達され、細胞内の生体物質が変動していきます。
近年の研究では、これら生体物質を網羅的に解析しようという試みがなされており、DNAを網羅的に解析する技術をゲノミクス、RNAを網羅的に解析する技術をトランスクリプトミクス、タンパク質を網羅的に解析する技術をプロテオミクスといいます。一方、'メタボロミクス'は、細胞や体液など、生体内に存在する糖やアミノ酸、有機酸、脂肪酸などの低分子物質を網羅的に解析する技術のことをいいます。生体内に存在する低分子物質のことを代謝物といい、糖やアミノ酸といった代謝物は、生物が活動する際に産生されたり、また、生命維持のために活用されたりします。
ヒトの場合、遺伝子は約二万種類、タンパク質は十万種類以上存在すると言われています。一方、代謝物は数千種類存在するとされており、細胞内で起こる代謝と呼ばれる化学反応を構成している重要な生体物質です。そして、この代謝反応は、酵素と呼ばれるタンパク質によって制御されていて、この酵素により制御された代謝反応によって、細胞中の代謝物量は変動し、その結果として、細胞の状態や細胞機能などが変化していき、表現型(※)にも大きく影響します。以下に、細胞内における代謝反応(代謝経路)をまとめた図を示していますが(図2)、入り組んだ数多くの代謝反応(例えば、高校の生物などの授業で習う解糖系やクエン酸回路もこの一部です)が細胞内で起こっており、代謝物の動きは遺伝子やタンパク質と比べて表現型により近く、細胞内の状態をより詳細に反映していることが多いと考えられています。 ※表現型...生物が示す外見上の形態的、生理的形態のこと
代謝、そして、代謝物は、基本的に、どのような生物にも存在していることから、代謝物に基づいた検証、つまり、'メタボロミクス'研究は、近年、植物分野、動物分野、食品分野、微生物分野、医学分野など様々な研究分野で盛んに行われるようになり、各研究分野の発展に大いに貢献しています。例えば、医学分野ではバイオマーカー探索研究やがん研究、食品分野では機能性や品質に関する研究、植物分野では表現型に関する研究などで、いろいろな形で'メタボロミクス'研究は活用されており、様々な研究への応用も期待されています。
'メタボロミクス'研究において、代謝物を分析するために質量分析計と呼ばれる精密機器を使用することが多く見られます。代謝生化学研究室では、特徴が異なる2種類の質量分析計(ガスクロマトグラフ質量分析計(図3)・液体クロマトグラフ質量分析計(図4))を用いて研究を進めています。質量分析計を用いることで、数多く(数十から数百種類)の代謝物を一度に測定することが可能となり、得られた代謝物情報から新たな発見ができないかと考え、研究を進めています。
【 代謝生化学研究室】
教員情報:西海信 准教授(Link)
研究紹介:代謝物と生体機能との関係を解き明かす(Link)